2016年07月27日

【弁理士が語る知財のあれこれ:第1回】弁理士の置かれる現状とこれから

管理部門・士業の転職

【弁理士が語る知財のあれこれ:第1回】弁理士の置かれる現状とこれから

ソナーレ特許事務所の右田(みぎた)と申します。知財業界に興味のある方々に向けて、知財コラムを寄稿させていただくことになりました。
まずは簡単に自己紹介をさせていただきます。私は企業の開発部門を経て特許事務所に転職して2005年に弁理士登録し、その後さらに2つの特許事務所で実務経験を積み、2012年に独立開業しました。当事務所は、弁理士3名、顧問弁護士1名、総員10名あまりの小規模な特許事務所です。電気・機械・化学分野について国内での特許の権利化業務が中心で、外国出願(内外、外内)や争訟対応などもおこなっています。つまり業務内容に関して言えば”ごく普通”の特許事務所です。

今回は、「弁理士の置かれる現状とこれから」について、事務所側の視点で解説します。

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弁理士の将来像が悲観的という意見はなぜ多いのか…?

弁理士の将来性については、インターネット上にも多くの記事がみられます。今後ますます知財が重要で弁理士が求められている!なんていう前向きな記事もありますが、多くは悲観的です。その主たる根拠は弁理士一人あたりの特許出願件数の減少というものです。
特許行政年次報告書2016年版(https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2016/index.html)の1-1-1図をみますと、日本国内の特許出願件数はこの10年間で20%以上減少したことが分かります。PCT国際出願の件数(1-1-2図)と合計しても出願件数の減少傾向は直近でも続いており、ようやく「下げ止まりつつある」といったところでしょうか。国内の特許出願件数を減らして外国出願に力を入れているという企業もありますが、日本から海外への特許出願件数も頭打ちになっている(1-1-29図)ことからすると、特許出願の総数が今後大きく増えることはなさそうです。
一方で、弁理士の人数に関する特許庁の資料(http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/dai7newberisipaper/sankou02.pdf)をみますと、弁理士登録されている人数は、平成15年に5548名だったものが平成25年に10,000人を超え、その後も増加の一途です。したがって単純計算すると、弁理士一人あたりの特許出願件数が大きく減少していることになります。
こういった情報から、特に特許事務所に所属する弁理士に対して「将来性がない」といった悲観的な声や、「特許出願以外の周辺業務に進出すべき」とか「それはコンサルティング業務だ」とかいった願望的(?)な声が聞かれます。
さらに最近は、2030年には弁理士の仕事は92%の確率で人工知能(AI)によって自動化が可能になる(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/738555.html, http://pc.watch.impress.co.jp/img/pcw/docs/738/555/html/0013.jpg.html)なんていう記事も出て悲観論をあおっています。その影響もあってか、特許事務所ではなく企業の知財部門に就職・転職することを希望する弁理士が多くなっているように感じます。

頑張った人が報われる『良い時代』という見方もできる。

しかし、これまで私が弁理士業務を行なってきて実感する弁理士の将来像は、そのように悲観的なものではまったくありません。もちろん”弁理士資格があれば誰でも将来は安泰”なんていう甘いものでも決してありませんが、顧客企業から期待されることは大きくまた多岐に亘っており、弁理士の将来が暗いものとは到底思えません。弁理士業界の競争についても、顧客企業が世界中の競合他社と日々戦っておられる姿と比較すると、決して厳しいとはいえません。物価が何倍も違う外国の企業と戦っているわけではありませんから。ではどのくらいの厳しさなのか、と言われると難しいですが、顧客のことをよく考え、顧客に提供できる「自分たちの価値」が何であるかを見極め、そしてその価値を高めるべく「適切な努力」をしっかり続けていれば生き残れる競争です。
近年は弁理士も増えたことで、多くの顧客企業が事務所単位だけでなく担当者(弁理士)個人単位でも実力をしっかりと評価して仕事の依頼先を指名してこられます。どの案件も手を抜くことなどできず気が引き締まりますが、そのようなことはどの業界でもあたりまえのことでしょう。特許事務所業界には既得権益などなく、しっかり努力すれば新規参入がいつでもできる正常な競争が行なわれているということです。頑張った人が報われる良い時代だとも言えます。ほどよい競争の中で、上に書きました「自分たちの価値」をしっかり貫いて顧客からの信頼を少しずつ蓄積していける弁理士や特許事務所が、生き残り成長していくことを許されるのだと思います。そのような弁理士や特許事務所は、日本全体の特許出願件数が微減したり微増したりすることの影響を受けないでしょう。それが特許事務所(弁理士)の現状とこれからです。では、「自分たちの価値」や「適切な努力」っていったい何なのでしょうか。それはこのコラムで別の機会にとりあげようと思います。私どもの事務所は設立してまだ4年です。厳しい競争にさらされるのはこれからかもしれませんが、これまでのところ少しずつ成長しながら無事に進んできました。私が偉そうにこのコラムで書いていることがはたして正しいのか、それをこれからも日々検証していきたいと思っています。

人工知能(AI)に弁理士業務は代替できるのか?

人工知能の話について上で少し触れました。人工知能に弁理士の業務が代替されるかという点に関してはこう思います。クレーム(特許請求の範囲)を作成する作業は、顧客企業と競合他社の製品や権利の現状と将来像を様々に想定して知識と経験を総動員して行なう必要があり、きわめて創作的な活動です。弁理士になって10年以上経ちますが、今でも悩みに悩んでクレームを作成しています。この作業が人工知能に代替される日が来たとしたら、それはおよそ世の中のほとんどの知的労働が代替された後のことでしょうから心配しても仕方がありません。特許庁の審査官や知財高裁の裁判官の業務よりも、クレームを作成する弁理士の作業は人工知能への代替が困難でしょう。審査官が居なくなった後の時代のことを心配するよりも、ワープロやPCの延長の手段として人工知能を活用して一部の作業を楽にし、弁理士はクレームの作成に専念するのが良いかもしれません。むしろ歓迎すべき時代でしょう。そして、人工知能に追いつかれないようにクレーム作成のスキルを日々高めるように努力していくことが大切だと思います。

おわりに:特許事務所で働く魅力を伝えていきたい。

特許事務所で働くことの魅力についてもこのコラムで別の機会にとりあげます。最大の魅力は、多数の企業とお付き合いすることができるため1社だけに勤務することに比べて幅広く好奇心と達成感を満たせる点にあると思います。自分が特許明細書を書いた様々な業種の発明品を街中やテレビで見かけると嬉しくなります。製品を愛用していた企業が顧客になると気合いも更に入ります。ですので、もし特許事務所で仕事をされるのであれば、顧客企業が1社のみではなく多くの企業の案件を手掛けられる事務所の方がきっとやり甲斐も大きいことでしょう。将来独立開業したいという方もそうでない方も、特許事務所で弁理士として是非一緒に活動していきましょう。


(第1回終)

次の記事は、こちら→◆【弁理士が語る知財のあれこれ:第2回】特許事務所で働くってどんな感じ?

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