2023年04月01日

弁護士の広告規制 自由化までの経緯と現状

管理部門・士業の転職

 弁護士と依頼人は、従来、紹介を基本として出会うものでした。しかし、弁護士人口が増員されたことで、紹介だけでは依頼の数が少ない若手弁護士も増えています。そこで「広告」の有効性が注目されています。ただ、日弁連が要求する条件が厳しいだけでなく、同業者の間では血で血を洗うギリギリのPR競争が繰り広げられているのも実態です。
この記事では、日本国内の弁護士広告の歴史と実態、課題についてまとめました。

弁護士広告の歴史

戦前の日本では、弁護士の広告は比較的自由に新聞の広告欄などに出されていました。
当時は「暑中休業せず」「最小事件といえども心切丁寧に取り扱ふ」などと、庶民に対して敷居を下げる、素朴なアピールが行われていたことがわかります。

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かつての弁護士新聞広告 (明治26年6月30日 東京朝日新聞)

 ただ、戦後に日本弁護士連合会(日弁連)が発足した際に、大きな方針転換を迎えることになります。
弁護士業界の内部的な自主基準として「弁護士倫理」が規定され、その中で弁護士による広告の全面禁止ルールが定められたのです。
この頃に国会で定められた民主的ルールである「弁護士法」に、広告を禁止する規定は存在していないのですが、当時の日弁連の上層部においては、弁護士が広告する行為そのものが品位に欠け、ふさわしくないと判断がなされたのでした。

しかし、法律トラブルを抱えて弁護士を利用したい市民から、弁護士の専門性や信頼性を判断するための情報が少なすぎるとの不満が噴出するようになり、1987年に条件付きで弁護士広告を解禁する「広告許容基準」が決定されたのです。

ただ、開示が許されたのは、弁護士の氏名や住所、法律事務所名や所属弁護士会、取り扱い業務、執務時間、法律相談料など、わずかな情報のみであり、広告許容基準で指定されていない情報を広告することは依然として禁止されたままでした。

弁護士広告が本格的に解禁されたのは、西暦2000年のことでした。日弁連が「弁護士の業務広告に関する規程」と、その条文解釈基準である「業務広告に関する指針」を、新たに定めたことによります。

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弁護士広告の特殊性

法律的な困りごとに直面したとき、「いい弁護士に出会いたい」という希望は誰もが抱くことでしょう。しかし、弁護士という職業人に関しては「利用者による口コミが難しい」という特性があります。レストランなどの外食店であれば、同じ注文をすれば誰にでも同じ料理が提供されるわけで、客がその評価や格付けをすることも比較的容易でしょう。

しかし、弁護士の仕事は、依頼人の困りごとに合わせて、常に「オーダーメイド」しています。一生のうちに弁護士を何度も利用する個人の依頼人は少ないため、「その感想には異議がある」と、別の依頼経験者から反対意見が出てくる可能性も低いのです。類似の案件でも、その解決方法には、さまざまなバリエーションがありえます。

よって、一般庶民にとっては、弁護士のよしあしを判断する資料に乏しく、結果として、「嘘・大げさ・紛らわしい」不適切な弁護士広告がまかり通りやすい特殊性があります。

依頼人が支払う報酬は高額にのぼるため、質の悪い弁護士に依頼してしまうことによる損害も大きいといえます。それで弁護士広告は厳しく規制されているのです。

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規程に違反する弁護士広告の概略

<「○○専門」「○○に強い」と謳う広告>
各弁護士の専門や得意分野を知りたい人々はたくさんありますが、専門の客観性が担保されないまま表示されるおそれがあることを日弁連は懸念しています。

「訴訟の勝訴率」を広告することは、規程4条1号で明確に禁止されていますが、弁護士の専門については広告を禁止されていません。ただし、「表示を控えるのが望ましい」と非推奨の注釈が付いていることから、弁護士の間でも自粛ムードとなっています。
そこで、間接的に専門性を示すために、精通する法律分野に関する「専門Webサイト」を開設する弁護士も増えています。

「○○専門」と示す代わりとして、「○○に強い弁護士」という表現は、弁護士広告で氾濫しているのが実情です。ただ、その裏では「○○に強くない弁護士」の存在を暗示しているわけです。よって、「強い」ことが客観的に裏づける実証を伴わなければ、規程3条2号が禁じる「誤導又は誤認のおそれのある広告」に該当しえます。

<不当な実績表示>
実績には、「通常の弁護士では得られない特別な成果」と、「通常の弁護士では得られるが、弁護士資格者でなければ得られない成果」があります。
たとえ弁護士にとっては平凡な実績であっても、一般の人々にとっては救われるわけですから、普通の実績を広告でPRすることは問題ありません。

ただし、普通の実績をことさらに特別な成果であるかのようにアピールすることは、「誤導又は誤認のおそれのある広告」に該当しえます。事実を淡々と列挙することが重要です。

<不当な事例表示>
広告で、過去に携わった事例を表示することは問題ありません。
ただし、依頼人に関する守秘義務に反しないよう、依頼人は匿名とし(イニシャル表示も不可)、本質的な変更でない限度で事件を抽象化し、依頼者などの関係人の利益を害さないアレンジを加えなければなりません。
ただし、でっちあげの実績を表示する虚偽広告にならないよう、慎重に抽象化しなければなりません。

<「弁護士紹介サイト」の危険性>
弁護士紹介サイトの運営者が、単に弁護士側から広告料を受け取っているだけなのに、「おすすめ弁護士」と表示したり、ランキング上位に持ってくるなどの操作をしたりすれば、評価者が弁護士自身であるにもかかわらず、他人が評価したかのような外観を作出する「ステルスマーケティング(ステマ)」となり、やはり「誤導又は誤認のおそれのある広告」に該当しえます。

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SNSの活用も、広告になりうる

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Facebook・Twitter・InstagramなどのSNS(ネット上の交流サービス)を利用する弁護士が増えています。ホームページやブログは受け身のメディアですが、SNSは積極的に情報発信できるため、弁護士と将来クライアントとなりうる人々との接触頻度が高まるメリットがあります。
ただし、「法律相談はこちら」など、SNS投稿に顧客誘引目的が含まれると認められる場合は、弁護士広告となり、プロフィールなどで、本名や所属弁護士会の表示義務が課されます。
その一方で、弁護士が匿名で投稿しても、顧客誘引目的がなければ問題ありません。投稿の閲覧者から求められても、弁護士であることを証明する義務もありません。

今後、新たなインターネットサービスが次々に誕生していき、多くの弁護士が活用するでしょう。弁護士にとっての集客やブランディングの必要性と、弁護士業界全体の「品位」の保持とのバランスをいかに取るか、これからも試行錯誤は続いていきます。

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